あくまでも当店の見解です。
今のピアノは進化ではなく、合理化している。
今から100年ほど前の明治・大正の時代から戦後しばらくの間に造られた日本のピアノは、
今では考えられないくらい職人さんの手によって手作りで1台1台まさに工芸品のように造られており、
ピアノ1台で家が建つほどの大変高価な品物で本当に裕福な家でないと所有することなど出来ず、
学校でさえピアノがあるのが珍しく一般庶民には手の届かない憧れの楽器でした。
戦後の復興と高度成長に合わせ、一般家庭でも頑張ればピアノを買えるようになり現在に至っていますが、
誰もが所有できるようになったのは日本の大手ピアノ製造メーカーさんの企業努力
のおかげで安く買い求めることができるようになりました。
買えるようになった反面、失ったものもあります。
ピアノメーカーさんがピアノの材料の変更や製造工程において合理化をはかり、
コストを下げ大量生産を可能にしたことで低価格にて販売することを可能にしましたが、
その合理化が楽器・ピアノという観点から見るとピアノとして楽器として大事な”音やタッチ”を犠牲にしてしまったのです。
戦後、工作機械と塗料、接着剤が良くなり均一で安定したものを造ることができるようになり、
どんなものでも加工して造ることが可能になりました。
例えば、ある木材を使う時、昔はその1枚の木材の良い部分・使える部分だけを選んで使っていましたが、
今までなら捨ててしまっていた部分も手を加え補修や加工して使うようになりました。
限られた資源を無駄なく有効に利用するという点から見るとすばらしいことですが、
楽器を、ピアノを造るという面では必ずしも良いとは言えません。
ピアノの響板(サウンドボード)というピアノにとって音の根幹にかかわる大事な板も、
本来は無垢の木材を吟味して良い部分のみ選び何枚も並べて1枚の大きな板になるのが、現在では集成材、
わかりやすく言えばベニヤ板のようなものを使用しているピアノもあります。
見た目は化粧板やプリントで綺麗ですし無垢材よりも安価なのが利点で、
集成材で造った響板でも設計通りに製造すれば音はちゃんと鳴ります。
もし集成材の響板の方が優れているというのならば、世界中のピアノメーカーが使うはずです。
集成材の響板を使用しているのは日本を含めアジアなどの一部のメーカーのみです。
ピアノの心臓部分ともいえる内部アクションパーツにしても従来は木製パーツを使用しようしていますが、
中には樹脂パーツを使用しているピアノもあります。
ピアノにとって大敵である湿気に対し樹脂そのものは影響をあまりうけません。
しかし樹脂が吸わない分、フェルトやクロスだけが吸い膨らんだ影響で鍵盤動きが悪くなり音が鳴らなくなってしまいます。
もちろん木製パーツでも湿気てしまい同様の症状になることがありますが、
樹脂パーツを使用しているピアノの場合の方が元のちゃんと動いて音が鳴る状態に戻すのが大変です。
木製にも欠点はありますが、本場ヨーロッパのピアノメーカーでは樹脂パーツをほとんど使っていません。
樹脂の方が木に勝るのであれば、樹脂の方が低コストで大量生産にむいているのでメーカーにとってもありがたいはずです。
このように日本のピアノメーカーさんの努力のおかげで一般家庭でもピアノを所有することが
できるようになった反面、犠牲になった、失った部分もたくさんあるのです。
ピアノはあくまでも楽器です。何より最も大事なのは“音とタッチ”です。
日本でも昭和初期から戦後間もなくのころのピアノは合理化のない昔ながらの本来の造りでしたが、
今、昔ながらのピアノ造りをするのは不可能と言えます。
造れないのではなく、設備投資や人材探しや育成が必要で今以上にコストがかかってしまい、
とても高価になってしまうからです。
ビジネスピアノからピアノへ。
現在販売されている多くのピアノが合理化され、
必ずしも音やタッチを第一に考えて造られているピアノばかりではありません。
また、今後昔ながらの造りに戻すのも難しいの現実です。
合理化がいけないというわけではありません。
合理化されていても音やタッチの良いピアノ、
音やタッチのことを1番に考えて造られているのであれば良いと思います。
事実、世界的有名なスタインウェイピアノも現代の合理化の波にのまれていますが、
”譲れない部分、変わらない・変えられない大事なところ”は
今も昔も同じだからこそ今日も多くのピアニストや愛好家から指示されているのだと思います。
低コストで効率が良く、それなりの音が鳴っていれば良いというようなビジネスピアノではなく、
楽器としての大事な部分(音やタッチ)を守りながら多少の合理化はあれど楽器本来の魅力あるピアノ。
音やタッチには好みの個人差がありますが、その人その人にとって外観のデザインも含めてトータルで所有する喜びのあるピアノ。
自分の人生を共に歩んでいきたくなるピアノを当店はいろんな角度からアプローチ、提供していきたいと考えます。
ただ、「鍵盤の数があって音が鳴っていればいいんだ。」
「構造だとか造りとか歴史とかよくわからないし、名の通ったピアノメーカーの中から
予算に合わせて選んでおけば間違いないのでは。」という考えの方もいらっしゃるでしょう。
それは、ある面その通りと言えますし、満足されているのであればそれで構わないと思います。
当店は、音楽が好きでピアノが好きでちょっとステキなピアノが欲しい方に、
ちょっとこだわりのある方に、ちょっといいピアノをお探しの方に実際に見て弾いて
比較していただける”出会いの場”になるようなお店を目指しています。
おかげさまでインターネットを通じて、全国各地から問い合わせや来店のお客様が増えています。
まずは、ピアノを見て・弾いて・比較して下さい。
ピアノはカタログで見て買う物ではありません。
まずはいろんなピアノに触れて違いを感じていただきたいと思います。